水景に魅せられて

お酒やアクアリウムなど

花火とフローズンダイキリ

夜空一面に広がる色とりどりの光

「ドーン!!」「バリバリバリ!!」

地響きのような低い爆発音から周りの建物に反射して無数に散らばる亀裂音

蒸し暑い人の群れの中に翔太は弥生と手を繋いぎ空を眺めていた。

弥生は着せてもらった青竹の涼しげな浴衣を着て花火の光を正面に受けていた。

「キレイだね〜!」

 無邪気に笑う弥生の横で(お前の方が綺麗だよ)と心の中で呟く。

言えるはずもない。翔太は女性とデートをするのが初めてなのだ。

同期入社した16人の中で専門学校卒の2人は同い年ということもあり何かと行動を共にした。

美人なタイプではないが笑顔が華やかな弥生を翔太は好きだった。

そんな弥生から花火に行って見たいから一緒に行ってと言われ

「別にいいよ」

とカッコつけて今に至る。

 

人混みをかき分けて歩く最中、

「混んでるから繋いでて」

と、弥生から手を繋いで来た。

 

はじめて繋いだ手は小さくて柔らかかった。

一度離したらもう繋げないような気がして翔太は絶対離すものかと心に誓った。

 

屋台でかき氷を食べる。

熱くなった身体を爽やかに冷やしてくれるレモン味だ。

「あたし、かき氷大好きなの。家でも作るんだよ」

そんな弥生は抹茶味だ。

「家では甘いお酒をかけて食べたりするんだよ。美味しいよ。」

翔太は弥生がかき氷を作ってるところを想像した。

かわいいかき氷機なんだろうな

「美味しそうだね。弥生ちゃんお酒好きなんだ」

翔太は先週末行ったケンさんの所のフローズンダイキリを思い出した。

「そんなに強くないけど甘いのが好き」

と弥生。

「僕がたまに行くバーでかき氷みたいなカクテルがあってすっごくおいしいんだよ」

翔太が言った言葉に弥生が立ち止まって振り向く。

「なにそれ!飲んで見たい!」

 

時間配分を間違えたかのような怒涛のクライマックスで空は感動と煙に包まれた。

翔太と弥生は人の波に流され電車に乗った。

電車を降りケンのレストランに向かった。

まだ弥生の手は離していなかった。

 

「いらっしゃいませ!」

「さっき電話したものです」

カウンターに案内されケンと目が合う。

花火の後の客でにぎわい始めた店内で忙しそうにしていたケンの動きが止まる。

「翔太!花火デートとはやるじゃないか!」

翔太はこのカウンターに女の子と二人で来るのが夢だった。

ケンに褒められたようで嬉しかった。

「会社の同期の弥生ちゃんです」

勝手に紹介してしまってから横をチラッと見る。

弥生は慣れた感じで

「初めまして、よろしくお願いします」

と言った。

「今日はフローズンダイキリを飲みたくて来ました」

と翔太は忙しそうに手を動かしているケンに伝えた。

「今日だと季節的に桃と巨峰かあるけどその2つでいいかな?」

翔太は横に目をやると、弥生はウンウンと頷いている。

「はい、お願いします!」

 

フローズンダイキリとはラムベースのダイキリというカクテルの変化系でダイキリと比べると甘く飲みやすく作ることが多い。

ケンのフローズンダイキリは、凍らせておいたフルーツ、ラム、シロップ、クランベリージュースと砕いた氷をブレンダーにかけて滑らかなシャーベット状にする。

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カウンターに並べられた2つのグラスに弥生が興奮して写真を撮っている。

「美味しそー!あたし最初桃飲んでいい?」

とストローをくわえた。

「おいしー!」

翔太も巨峰をストローで飲んだ。

ふわふわの氷の粒が軽いアルコールの香りと爽やかな巨峰の甘さを包んで一気に口の中の渇きを癒した。

弥生は巨峰も飲んで見たいと桃をこちらにスライドして来た。

巨峰を弥生の前に置くとストローで飲んだ。

完全に間接キスだ。

翔太も少し躊躇したがストローで桃を飲んだ。

巨峰よりも甘く優しい味に思わず顔がほころぶ。

喉の渇きもあってか2人はあっという間に飲み干した。

「翔太くんすごい!ほんとに美味しかった!」

興奮と満足感とアルコールがが弥生のテンションを上げて行く。

そのあと翔太はハイボールを飲み、弥生はミルク系のカクテルを飲んだ。

弥生の顔が赤く染まっている。強くないと言っていたのは本当らしい。

 

 

「今日はありがとね」

急に弥生が改まって言って来た。

「ううん。ありがとう!楽しかった」

弥生の顔を見ること出来なかったが素直に言えた。

「あたしね、会社辞めて結婚するの」

情報が急すぎて翔太は処理できなかった。

「えっ!どういうこと!?」

弥生を見て聞き返した。

弥生は正面を見て続けた。

「会社にはもう言ってある。彼が転勤で東北に行くから、結婚して付いて来てほしいって。就職したばっかりだから迷ったんだけど、またあっちで仕事探そうっと思って。」

弥生に彼がいるとは知らなかった。ショックだ。隣にいる弥生との距離を感じた。「嘘だよ」と笑ってほしい。

何も言葉が出てこない。

「最後に翔太くんと遊べてよかった。あたし、翔太くんの事好きよ。優しくて真面目で」

弥生は笑って言った。

 

翔太にとって産まれて受けた初めての告白は両思いだった。